中国の軍事力増強とその意思ー習近平体制で台湾危機は起こり得るか?尖閣、南沙諸島は?

こんにちは。Shiroです。

今回は、ウイグル自治区での人権侵害などに起因する北京五輪ボイコットや軍事行動・領土問題などで何かと話題に事欠かない中国について取り上げます。

テーマは、中国の安全保障上の論点です。

ですので、今回のテーマ上は、ウイグルやチベット、香港などの人権問題はスコープから外れますので悪しからず(これはこれで重要なので、そのうち取り上げるかもです)。

<目次>

  1. 習近平体制の中国
  2. 中国の軍事力・経済力の現在と見通し
    • 中国の軍事力・軍事支出
    • 中国の現在のGDPと将来見通し
    • 中国の戦略意図ー台湾、尖閣、南沙諸島
  3. 中国に対する主要各国の対応
    • 米国
    • オーストラリア
    • ASEAN
    • インド
    • EU・英国
  4. 中国に対する日本の対応
  5. 中国に対するShiroの私見

1.習近平体制の中国

2021年11月、中国は、第19期中央委員会の第6回全体会議で、40年ぶりとなる「歴史決議」を採択しました。その内容は、共産党の100年間の歴史を統括し、主要な成果や今後の方向性を示すものです。

歴史決議が採択されたのは、毛沢東、鄧小平氏に続く3回目で、彼らに並ぶ地位を習近平が手に入れたものと受け止める声もあります。

しかし、中国共産党の規約は、個人崇拝を禁止しており、また、共産党内にも現在の習近平政権の個人崇拝傾向に対して否定的に見て距離を置くグループもあると言われています。

来年の党大会で、総書記の3期目継続となるかどうかが決まりますが、今のところ3期目はほぼ確実視されています。

来年3期目を迎える習近平総書記(国家主席)への権力の集中が強まるのか、それとも弱まるのかなど、今後も中国国内の動きから目を離せません。

2.中国の軍事力・経済力の現在と見通し

・中国の軍事力・軍事支出

中国の軍事力について、2021年11月に出された米国議会の報告書は、以下の指摘をしています。

  • 中国は、台湾に対する空・海域の封鎖やサイバー攻撃、ミサイル攻撃を行う能力を既に有している。
  • 米国の通常戦力だけでは、中国の指導部が台湾への攻撃を開始することを抑止し続けられるかが不確かになってきている。
  • 他方で、中国軍は、統合作戦や人員の質に大きな弱点を抱えている。
  • 中国にとって、近い将来の台湾進攻は依然として高いリスクを伴う選択肢である。
  • 核戦力について、多数のICBMの基地建設含め、質的・量的変化が見られ、最小限の核戦力保有という従来の方針からの逸脱が見られる。

他方で、米国の国防総省の報告書(GPR)は、中国の軍事力については、以下の指摘をしています。

  • 中国は、今後10年間で核戦力の近代化・多様化・拡大を目指している。
  • 核弾頭を2030年までに少なくとも1000発は保有する可能性がある(ちなみに米国は2021年に約5,500発、ロシアは約6,300発を保有している。)

続いて、台湾の国防部は、中国の軍事力に関して、以下のような指摘をしています。

  • 中国による「グレーゾーン事態」に警戒する必要がある。
    • 具体的には、防空識別圏に対する中国軍機の侵入多発
    • 頻発するサイバー攻撃
    • 既存メディア・SNSを通じた情報戦・心理戦

最後に、日本の防衛省の外部機関である防衛研究所は、中国安全保障レポート2022の中で、以下のように指摘しています。

  • 中国人民解放軍は、統合作戦能力の深化を目指している。これは、陸海空に加え、衛星・サイバー空間を一体的に運用するとともに、敵方が同様の運用をするのを阻止する能力を含むものである

中国の軍事支出は、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2020年で米国の7,780億ドルに次ぐ世界2位の2,520億ドル(推定)で、3位のインドの729億ドルの3倍超の軍事支出となっています。ちなみに、日本の2020年の防衛支出は491億ドルと中国の5分の1でしかありません。

中国の軍事支出は前年比では1・9%増となり、26年連続の増加です。

ちなみに、2011年比では76%増という数字になっています。

このように、1990年代後半からの急速な経済成長を背景に、中国は質的にも量的にも世界有数の軍事力を手に入れつつあり、将来的に米国も凌駕する可能性も現実化しつつあります。

・中国の現在のGDPと将来見通し

中国の2020年の名目GDPは、前年度比成長率も3%の14.72兆ドルと、米国の21兆ドルに続いて世界で2位の経済大国となっています。

なお、日本は2020年の名目GDPは第3位で4.9兆ドルです。

今後の経済成長見通しについては、エコノミストの間で見解が分かれていますが、早ければ、2028年にも名目GDPで米国を抜くという試算もあります。

なお、物価の差を考慮した購買力平価では、中国のGDPは米国を既に上回っています。

しかし、急速に進む高齢化により、2050年代以降は再び米国の名目GDPが逆転するという見通しもあります。

これを前提とすると、米中の名目GDPが逆転して再逆転するまでの二十数年間に備えて、これからどのような準備を進めていくか、ということが重要なテーマとなると考えます。

ただし、名目GDPが逆転したからと言って、すぐに軍事力も逆転するわけではないので、そこは留意する必要があります。

個人的には、中国が軍事力で米国並みになるのは、早くても2040年代以降ではないか、と見ています。

・中国の戦略意図ー台湾、尖閣、南沙諸島

中国の対米A2/AD戦略と地理的国境・戦略的国境概念

中国は、2010年代から、対米国の軍事戦略として、A2/AD戦略を採用しています。

A2は、Anti Access(接近阻止)、ADとは、Area Denial(領域拒否)の略語です。

要するに、米国の軍事力を中国に近づけない、ということです。

そこから派生したのが、第1列島線と第2列島線という考え方です。

下の図で第1列島線(First island chain)と第2列島線(Second island chain)が描かれていますが、中国は、伊豆諸島からグアムまでの第2列島線の内側で米軍の軍事行動を阻止し、より中国に近い第1列島線(南西諸島とフィリピンを結ぶ)の内側には、米軍が進入することを食い止める戦略を採用しています。

また、中国国内では、地理的国境と別に、「戦略的国境」という概念が近年浮上しているという報道もあります。

これは、意味合いとしては、中国の人民解放軍の影響力行使によって、実効的に支配を行うエリアを念頭に置いた概念です。

例えば、かつてベトナムから西沙諸島を奪い、南沙諸島では一部(6岩礁)を占領したりしていますが、法的な紛争解決を行わず、武力による実行支配によって事実上の国境を拡大しようという動きは、この「戦略的国境」という概念と整合的だと解釈できます。

これからお話する台湾、尖閣、南沙諸島の例も、今お話したA2/AD戦略や戦略的国境概念を念頭に読まれると、その意図がお分かりになるかと思います。

中国と台湾

2027年に解放軍建設から100年を迎える中国ですが、そのタイミングまでに、台湾に対して何らかの行動に出るのでは、という指摘がなされています。

実際、習近平国家主席は、全人代の場で、軍創設100周年である2027年までに台湾解放を実現しなければならない、と発言したと報道されています。

この点については、色々なシナリオが考えられます。

例えば、

①台湾本土に侵攻する(最悪ケース)

②台湾の離島に侵攻する(2014年のロシアのクリミア侵攻と同様のケース)

③武力行使には出ないものの、外交・経済的な圧力を強める

このうち、米国の中国レポートなども踏まえると、今のところ可能性が高いのは③⇒②⇒①の順番かと思いますが、誰にも正解は分かりません(おそらく習近平しか答えを知らない。)。

日本含む各国にできるのは、①②のような行動を中国がとった場合に、中国が痛手を被ると認識させることと、③のような行動をとる中国に対抗し、台湾が孤立しないような支援行動をとることでしょう。

その意味で、今回TPPへ加入意向を示した台湾をサポートすることは、きわめて重要だと思います。

中国と尖閣諸島

続いて、尖閣諸島ですが、中国は海警(日本の海上保安庁に相当するが、中国共産党の軍機構の傘下)による常習的な領海侵入行動に加えて、人民解放軍による、潜水艦による日本接続水域での情報収集活動、艦隊・空母の太平洋上での軍事演習などを繰り返しています。

今のところ、これらがエスカレートする兆候はありませんが、国の中心から離れた離島などの領土は、国の防衛能力・防衛意思ともに強度を欠きがちですが、そこにつけ込んだ他国によって一度侵攻がなされると、これを取り返すことは至難の業、という現実があります。

日本の場合、戦後のどさくさで韓国に奪われた竹島の例を思い浮かべていただければ、その意味をご理解いただけるのではないかと思います。

ですので、かつて石原慎太郎元都知事が主張していたように、自衛隊の尖閣駐留含め、真剣に議論するタイミングに来ているのではないかと、私は考えています。

尖閣に基地を作るためには大規模な埋め立てが必須だと思いますが、これが技術的に困難というわけではなく、もしただ単にコストの問題ということであれば、その必要性と費用対効果含め、議論の俎上に載せるべきではないでしょうか。

中国と南沙諸島

最後に、南沙諸島についても触れさせていただきます。

南沙諸島は、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイの6か国が領土を主張する領域で、現在は、各国それぞれが南沙諸島の一部分を実効支配しています。

しかし、最近、中国の民兵が乗り込んだ「漁船」による、各国が実効支配する領域での船舶の停泊行為が頻繁に見られるようになっています。

フィリピンなどは中国に対し抗議を行っており、米国もこれを支持する姿勢を示しています。

また、南沙諸島については、2016年にオランダのハーグ常設仲裁裁判所が中国に対して、南沙諸島に関し中国が主張する歴史的権利について、「国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」とする判断を下していますが、中国はこれを不当な判決として無視しています。

補足すると、現在の国際法は、国内法と異なり、司法管轄権の限界(両当事国が合意しないと裁判できない)、執行の限界(そもそも執行機関を持たない)という2つの限界を持っており、ロシアのクリミア侵攻などに続き、国際法の限界が露呈する悪しき前例の一つとなりました。

3.中国に対する主要国の対応

・米国の対中姿勢

米国は、2000年代のブッシュ政権、オバマ政権、2010年代のトランプ政権、そして現在のバイデン政権まで、一貫して、中国に対して警戒する姿勢を取り続けています(勿論、経済や人権など、重視するテーマは時の政権によって変わっていますが。)。

現在のバイデン政権のスタンスは非常に明確であり、中国がインド太平洋地域で極端な行動に出ることを思いとどまるよう、軍事的・外交的な取り組みを続けているという状況です。

例えば、中国が台湾に対し爆撃機を飛ばした後に、すぐさま米国のミサイル駆逐艦を台湾海峡に送ったのは、軍事的な打ち手であり、同時に中国に対して米国は台湾有事にコミットするというメッセージとして受け止められます。

また、外交面では、ウイグル自治区における深刻な人権侵害を理由として2022年の北京五輪をボイコットすると表明するなど、中国に対して、Noと言うべきところは明確にNoを突き付けています。

・オーストラリア

続いてオーストラリアですが、2000年代以降、両国の経済的依存関係の深まりを受け、オーストラリアは親中国家でした。

しかし、新型コロナウィルスをめぐるWHOの対中調査を豪政府が主張したことに端を発して両国の政治関係は急速に冷え込み、来年の北京五輪にも外交ボイコットを行うことを表明しています。

この背景には、オーストラリア国内で悪化する対中世論もあるようです。

また、安全保障面でも、米英豪の3か国の軍事同盟であるAUKUSが今年9月に発足していますが、これは、安全保障面で米英との関係を強化するというオーストラリアの明確な意図の現れです。

今後も、AUKUSやこれに日印ASEANなどを加えた枠組みでの、対中包囲網を強化していくのではと考えられます。

・ASEANの対中姿勢

ASEANについては、国による対中スタンスの温度差などがあると言われていますが、ちょうど昨日、2021年12月12日に英国で開かれた、G7外相+ASEAN拡大会議の場で、中国が軍事拠点化を進める南シナ海について、「同地域で平和・安全・安定を損ない、緊張を高める可能性がある」と懸念を示す共同声明を出しています。

上述のとおり、フィリピンやベトナムなどは南沙諸島で中国と敵対しており、中国の軍事拠点化に対抗する観点で、ASEAN外の各国との連携を強化していくことになるのではと考えられます。

・インドの対中姿勢

インドと中国は領土紛争を抱えています。

2020年6月に中印間で軍事衝突が起こったというニュースを記憶されている方もいらっしゃるかと思います。

そもそも、インドと中国の3440キロメートルに及ぶ国境は大部分が確定されていない状態で、今回の紛争も、その地域の一つであるカシミール地方のラダックという場所で起こりました。

この紛争はいったん収束したものの、今年10月の軍高官会談が物別れに終わるなど、今後も中印間の火種が残ったままであることが伺えます。

インドは、現在クアッド(日米豪印)のメンバーであり、米国との関係強化を背景に、対中強硬路線でいくのでは、と考えられています。

・EU・英国の対中姿勢

最後にEUですが、EUもフランス、ドイツなど伝統的に中国に対し融和的な姿勢を2000年代以降とっていました。

しかし、最近では、フランスは太平洋に領土を持つこともあり、中国軍の海洋進出を警戒し、仏海軍が日米の共同軍事演習に参加する、というほどになっています。

また、新型コロナウィルスによるパンデミックの際に、中国政府が世界的なマスク不足やワクチン需要を外交上の道具として利用したことも、対中政策転換の背景になっているようです。

また、ドイツについてもメルケル政権時代は、比較的ビジネス優先の親中でしたが、中国国内での人権侵害に対する批判の声が、ドイツ国内でも厳しくなっていっていました。

なお、独新政権の社会民主党のショルツ政権は、脱・親中路線を選択するとも言われており、今後の動向が気になります。

また、フランスとドイツ含むEU5か国が集まるG7は、今年6月のサミットで、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、新疆ウイグル自治区や香港情勢などで人権や基本的自由を尊重するよう中国に求めています。

イギリスも、EUに先立ち、2018年頃から西沙諸島に軍艦を派遣したり、最近でも台湾海峡に空母を派遣したり、日米英豪での共同訓練に参加するなど、中国によるインド太平洋地域の不安定化を念頭に置いた行動をとるようになっています。

4.中国に対する日本の対応

最後に、日本の中国に対する対応ですが、安全保障面の対応と、外交面の対応の二つに分けて見てみます。

まず、安全保障面の対応ですが、中国の領海侵犯・領空侵犯のおそれある場合については、自衛隊が迅速に対応をしています。

また、日米同盟が日本の国益上きわめて重要であることは、歴代の自民党政権が認識しており、現在の岸田政権も、日米同盟が日本の安全保障上、最も重要な二国間関係であることを明示しています。

複数国間の関係(いわゆるマルチ関係)についても、クアッドや防衛情報保護協定など、軍事的・安全保障上の打ち手は今のところ、比較的抜かりなく打っている、と言えるかと思います。

また、台湾については、岸田総理大臣は、TPP参加表明を歓迎するコメントを出していますし、安全保障の文脈では、国会答弁の中で、台湾は極めて重要なパートナーとしたうえで、台湾海峡の平和と安定が重要であり、台湾を巡る情勢について引き続き関心を持って注視していくと述べています。

安倍元総理も、台湾のシンクタンク主催のイベントで「台湾有事は日本有事」と述べるなど、台湾と日本の安全保障は一体であるという立場を明確にしています。

実際、日本の南西諸島・沖縄諸島(尖閣諸島、与那国島、石垣島など)は台湾から100~300km程度しか離れていませんので、仮に台湾本土で有事が起こった場合、直接的に、否応なしにその影響を受ける地理的な環境にいることは確かですね。

次に、防衛費については、伝統的にキャップとしてあった1%ルールが未だに生き残っており、今後これを岸田政権がどうするかが、一つの論点となりそうです。

岸田総理のスタンスは不明ですが、岸防衛大臣は、防衛費1%ルールは見直すべきという立場を明確にしています。

なお、高市政調会長も、この1%ルールについて、著書の中で見直すべきと述べていますし、彼女が主導した自民党の衆議院選挙の公約集の中でも、GDP比2%以上も念頭に増額を目指す旨明記しています(なお、公明党は1%ルールの堅持を主張しているようです、、)。

続いて、外交面ですが、TPPについて、岸田総理は、台湾の加入方針については歓迎する一方で、中国については、そもそもTPPのレベルを満たしているのかも含め見極める必要があると慎重な姿勢を示しています。

また、ウイグル自治区での深刻な人権侵害を受けて欧米豪などで外交ボイコットが打ち出されていますが、とうとう政府も重い腰を上げて、来年の北京五輪では、閣僚クラスの派遣は取り止めるという方針を明らかにしました。

ただ、中国に配慮し、代わりに室伏スポーツ庁長官の派遣を検討しているようです。

これは、日本らしい、「とりあえず」の折衷案のように思えますね。

ここで欧米豪と足並みを揃えずにいつ揃えるのか、個人的には極めて疑問ですが、これが岸田政権の今のところの選択ということになります。

5.中国に対するShiroの私見

個人的には、今すぐには中国が台湾本土、あるいは離島などを侵攻することはないと見ています。これは、尖閣や南沙諸島についても同様です。

ただ、中国が、圧倒的に軍事的に優位であるという認識と、加えて、侵攻したとしても米国やEU、日本含む先進国がそれを許容するという見通しを持った時、習近平は台湾などに対する武力侵攻を決断する可能性があります。

ですので、日本含む各国は、中国に対して、「備えること」(抑止力を効かせること)、そして、外交・政治の領域でも、中国に対して、台湾や尖閣、南沙諸島含むインド太平洋地域の平和と安定を脅かす行動は決して許容できないという、一貫した、団結したメッセージを出し続けることが非常に重要かと思います。

また、尖閣諸島に関して言えば、埋め立て基地建設と自衛隊の駐留含め、検討すべきではないかと考えています。

また、日本の視点では、広い意味での安全保障(科学技術の対中流出防止など)という意味で、経済安全保障の強化も必要になるでしょう。

これらの取り組みを、どこが政権与党になろうが、誰が総理大臣になろうが、決してぶれずに一貫して継続できることが、これからの日本の、そしてインド太平洋地域の安全保障にとって極めて重要になると考えています。


今回の記事は以上になります。

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それではまた次回👦

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