ケインズ主義・MMTなどの反緊縮・積極財政のリスクは?ーハイパーインフレ?国債暴落?国家財政破綻?

こんばんは。Shiroです。

最近、自民党内で財政政策検討本部が設置され、積極財政派と緊縮財政派が議論したり、国民民主党やれいわ新選組などがそれぞれ反緊縮・積極財政を掲げるなど、反緊縮・積極財政の機運が盛り上がってきていますね。

ただ、積極財政vs緊縮財政派については、三橋TVや西田議員のYoutubeチャンネルなどで散々この論点は解説されているところなので、今回の記事ではざっと説明し、その先の論点である、反緊縮・積極財政のリスクについて見ていきたいと思います。

<目次>

  1. そもそも反緊縮・積極財政って何?
    • 反緊縮・積極財政の全体像
    • ケインズ主義
    • MMT
  2. 反緊縮・積極財政で何が期待できる?メリットは?
  3. 反緊縮・積極財政のリスクは?
    • ①インフレリスク?
    • ②政府債務/GDP比率の悪化による国債格付け下落&国債暴落?
    • ③国家財政破綻?

1.そもそも反緊縮・積極財政って何?

・反緊縮・積極財政の全体像

反緊縮・積極財政については、そもそも緊縮財政・財政均衡主義について理解する必要があります。

緊縮財政・財政均衡主義は、戦後財務省が、国債で戦費を賄うことができないよう、占領政策の一環としてGHQ主導で作られた財政法に基づいて採用している考え方で、財政の均衡が原則で、財政赤字は悪であり、国債発行は最小限にとどめるとともに財政均衡を目指すべし、という考え方です。

2021年の衆議院選挙前に財務省の矢野財務事務次官が公表した論文でも、これまでの緊縮財政・財政均衡主義に則った論陣が張られていましたね。

この緊縮財政・財政均衡主義に対するアンチテーゼとして、最近盛り上がりを見せているのが、反緊縮・積極財政主義です。

特に、MMT(Modern Monetary Theory)については、最近書籍やYoutube、Twitterなどでもよく見かけるようになりましたね。

しかし、反緊縮・積極財政の歴史は古く、1930年代のアメリカにまで遡ります。

ご存知、ケインズ主義です。

・ケインズ主義

ケインズ主義は、英国官僚で経済学者でもあったジョン・メイナード・ケインズが「雇用・利子および貨幣の一般理論」で一世を風靡して以来、100年近く続いている経済思想・理論です。

その内容は時代環境や他の経済理論を取り込み変遷・アップデートされてきていますが、基本的には、不況時には金融緩和+積極財政で政府支出を増やすことが需要喚起と経済正常化に必要である、という考え方です。

他方、これまでの100年近い歴史を持つケインジアンたちの多くは、経済危機・不況時の財政赤字は許容するものの、財政が長期的には均衡することを追求しています。

また、ケインズ主義の特色は、各国の財政・金融当局者に信奉者が多い、という点です。

例えば、米国ではブッシュ・オバマ政権時代のバーナンキFRB議長やイエレン現FRB議長もケインジアンの系譜ですし、1990年代のクリントン政権のサマーズ、スティグリッツなどもそうです。

最古の例は1930年代の大恐慌後のニューディール政策の採用ですね。

この辺の事例は、反緊縮・積極財政のメリットのところで後述します。

・MMT

MMT(Modern Monetary Theory/現代金融理論)は1990年代にアメリカで生まれた経済理論です。

実は、MMTはケインズ主義(のうちポスト・ケインジアン派)から派生した流派です。

MMTで有名なのは、大統領選挙で民主党のバーニー・サンダース候補のブレーンだったニューヨーク大学教授のステファニー・ケルトンですかね。

あとは米国の下院議員のオカシオ・コルテス氏(現在若干32歳で2018年当選時点で史上最年少。最近だと民主党の法案に造反。)がMMTを支持しているのも有名です。

日本では、政党ではれいわ新選組がMMTの立場を採用して積極財政を打ち出しています。

個人の政治家で言うと、自由民主党の西田昌司参議院議員もMMTの立場ですね。

MMTについては、不況下の財政政策においてはケインズ主義と結論は同じく政府支出を増やすべきという考えを取っています。

ケインズ主義との違いはいくつかありますが、MMTは、

  • ①金融政策の有効性を認めていない
  • ②インフレ率については課税でコントロールできると考えている
  • ③国債発行は自国通貨を持つ国では中央銀行の貨幣発行と同義なので、無尽蔵に発行できるし、それによる財政破綻はあり得ない。よって財政均衡の必要はない。

と考えているところなどがケインズ主義との大きな違いです。

ただ、少なくとも、リーマンショック、東日本大震災、消費増税、コロナ危機などを経て国内需要が冷え込んだ現在の日本の状況においては、大規模な政府支出を行い、需要を喚起すべき、という点についてはケインズ主義もMMTも結論は同じです。

ですので、ケインズ主義とMMTが、少なくとも経済危機・不況時には手を握ることも、日本では主流派とは言えない反緊縮・積極財政派が国会内で多数派を占めるようにするためには必要ではないかと、個人的には考えています(勿論、それ以外の部分は是々非々での連携で良いと思いますが。)。

より深く、反緊縮・積極財政としてのケインズ主義とMMTの違いを知りたい方は、自民党の財政政策検討本部にも積極財政派の有識者として呼ばれた永濱氏の著作や、経済学者であり日銀の政策委員会審議員でもある野口旭の著作をどうぞ↓

MMTとケインズ経済学

反緊縮の経済学


2.反緊縮・積極財政で何が期待できる?メリットは?

歴史上、反緊縮・積極財政のアプローチを(時限的にですが)明確に採用した例としては、

  • 1930年代の大恐慌時代の先進国(実は日本も高橋是清大蔵大臣がいち早く積極財政採用し、この時日本は他国に先駆けて不況を脱してます。米国も続いて、フランクリン・ルーズベルト大統領がニューディール政策を採用。)
  • 2008年のリーマンショック後に米国、中国が積極財政を採用した例(同時に、ケインズ主義的に、大規模な金融緩和も実施。)
  • 2017年からの米国のトランプ政権の例(反グローバリズムかつ反市場主義的な「オルトライト(新しい右派)」に立脚し、減税とともに大規模な政府支出を行いました。)

辺りが有名です。

ともに、時限的にですが反緊縮・積極財政を採用したことで、需要喚起・経済を正常化し、経済成長させることに成功しています。


3.反緊縮・積極財政のリスクは?

①インフレリスク?

反緊縮・積極財政のリスクとして真っ先に上がるのが、インフレ率の上昇です。

政府支出を増やして市中のマネーストックを増やせば(市中に流通するお金を増やせば)当然インフレを促進する効果があります。

ただ、インフレ率については、政策金利の引き上げ(例:FRBの利上げ)、日銀保有国債の民間売却(いわゆる売りオペ)などの金融引き締めによって引き下げることができるので、個人的には、過度に警戒する必要はないと思っています。

②政府債務/GDP比率の悪化による国債格付け下落&国債暴落?

次の段階のリスクが、反緊縮・積極財政による政府支出の増加によって政府債務が激増した場合、政府債務の対GDP比率が悪化する可能性があり、その場合国債格付けが下がり、ひいては国債の暴落が起きてしまう、というリスクです。

ただ、このリスクは、

  • 政府支出のうち、どの程度が貯蓄でなく実際の消費に使われたのか(限界消費性向がどれだけか)。乗数効果(※政府支出によってその何倍GDP押し上げ効果があったかという指標)が高い支出がどの程度行われたか
  • 国債の利回りが低いままかどうか(低ければ政府債務の利回りも増えづらい)
  • 日本政府(あるいは日銀)が保有する資産がどうなっているか(債務とバランスしているかどうか)

などの要素に左右されますので、一概に、大規模な政府支出を行ったから即政府債務/GDP比率が悪化⇒国債格付け下がる⇒国債暴落というシナリオが必ず起きるとは言えません。

③国家財政破綻?

最後に、国家財政破綻(デフォルト)リスクですが、これは極めて起こる可能性が低いリスクシナリオだと思います。

なぜならば、一つには、反緊縮・積極財政で政府支出を大きく増やすとして、普通は国債価格なりインフレ率、上記国債格付けなりの先行リスク指標が変動するので、そこでリスクがあると判断すれば、上述のインフレ抑制施策などの打ち手を講じれば良いだけだからです。

なので、政府がそれら先行リスク指標の変動に何ら手を打たずに放置し反緊縮・積極財政の立場を堅持し大規模な政府支出をし続けるという、限りなく考えづらいシナリオでなければ、国家財政破綻は起きえないわけですが、幸い日本は民主主義国家ですので、数年に1回の国政選挙や定期的な有権者アンケートなどで有権者の意見を国会・政府に届け政府の不作為を是正することは可能です。

ですので、結論的には、日本には実質的に国家財政破綻リスクはないと言えます。


反緊縮・積極財政のリスクについての私見

ということで、先行リスク指標を見ながら適時適切にインフレ抑制施策などの打ち手を講じれば、過度なインフレ、国債暴落、デフォルトといったリスクシナリオは回避できます。

これは裏返すと、先行リスク指標の変動を無視して野放図に財政支出を拡大した場合には、上記リスクシナリオが顕在化する可能性がある、ということでもあります。

この辺りは、MMTの立場の方からは、インフレ率さえ気にすれば良く、通貨発行権を持つ日本の場合は国債暴落やデフォルトリスクはないのだ、という反論がありそうですが、この点については神学論争に近い水掛け論なので、少なくともどこかの国でMMTの理論が実証されない限りは、議論する価値があまりないと思っています。

そういう意味で、2021年12月に国民民主党の経済調査会が出した、「財政金融政策に関する考え方」は、緊縮財政・財政均衡主義とMMTの間に立つ、ケインズ主義的なドキュメントであると言えるかと思いますが、この神学論争の間で現実的な着地点を模索しようとする姿勢は非常に好感が持てますし、現実に即した実際的なアプローチだと思っています。

また、リスク最小化という観点だと、乗数効果の高い財政支出を行うことによって、GDPがより増加し、政府債務/GDP比率が改善することになりますので、事前にシミュレーションし事後に検証もしながら、PDCAサイクルを回して、より高いリターンが得られる、ケインズが言うところの「賢い支出」(ワイズ・スペンディング)を行っていくことも必要ですね。

例えば、教育や科学技術、デジタルは有力な財政支出の拡大対象でしょう。

ちなみに、教育の乗数効果は5倍~7倍とも言われていて、通常の公共事業への支出の際の乗数効果より乗数効果が高いので、教育無償化や教育国債発行など含めて、今後政府や与野党で議論を行っていって欲しいと思っています。


今回の記事は以上になります。

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それではまた次回👦

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