教育無償化、教育バウチャー、教育国債について考えてみた(前編)
こんにちは。Shiroです。
最近、教育無償化について、メディアに取り上げられることが増えてきました。
一つには、維新などの憲法改正案に教育無償化が盛り込まれており、憲法審査会の議論が開始されたこと、そしてもう一つは、昨年2021年の衆議院選挙で、教育無償化や教育バウチャー、教育国債について維新や国民民主がマニフェストに入れており、議席を伸ばしたことなどが背景にあるでしょうか。
実は、所得制限などはあるものの、大学などの高等教育の無償化は2020年から始まっていますし、私立高校の授業料実質無償化も2020年から始まっています。
ですが、
- 教育無償化が憲法上保障されていないこと
- 対象が限定的であること(対象者の所得制限、対象となる教育機関)
- 現行の制度がそれほど認知されておらず、十分に制度活用されていない
- 教育投資のGDP比率が依然として海外に比べて日本は低いまま*
*2018年度のデータですが、OECDによると、日本は、初等から高等教育機関に対する教育支出のGDP比について、OECD加盟及びパートナー諸国内の下位25%に入っています。
といった課題が教育に関してはあります。
ということで、今回の記事では、教育無償化を中心に、教育バウチャー、教育国債など関連するテーマとともに見ていければと思います。
(なお、近いテーマで幼児教育・保育の無償化もありますが、紙幅の都合上今回の記事では触れず義務教育以降を扱います。)
<目次>
- 教育無償化って何?(前編)
- 教育無償化の定義・範囲と目的
- 現行の教育無償化制度
- 憲法改正と教育無償化
- 教育無償化の財源
- 現行の教育無償化に関するShiroの私見
- 教育バウチャーって何?(中編)
- 教育国債って何?(後編)
1.教育無償化って何?
・教育無償化の定義・範囲と目的
まずは、教育無償化の定義ですが、教育無償化と言うとき、いくつかの観点があります。
1つには、無償化の対象となる「費用」の範囲です。
- 授業料
- 給食費
- 教科書代
- (大学など親元から離れる場合)生活費 等
2つ目の観点は、小学校から始まる「教育の段階」の範囲です。
- 義務教育(小学校・中学校)
- 高等学校(国公立・私立)
- 大学・大学院等の高等教育(国公立・私立)
3つ目の観点は、無償化の程度です。
- 完全免除
- 一部免除(減免)or一部支給
4つ目に、無償化の対象が「誰か」という観点もあります。
- 経済的に困窮しているが一定の学力がある学生
- すべての学生
- 学び直したい社会人含めた全ての国民
そして最後に、無償化の対象となる「教育機関」をどうするかという観点もあります。
- 設置の許認可を受けた教育機関全て
- 上記教育機関にさらに要件をクリアした一部の教育機関
これらの5つの観点について、現行の教育無償化がどうなっているのかは、後程見ていければと思います。
また、教育無償化の目的ですが、一般的には、次のような目的があるとされています。
- 教育機会の均等の確保
- 経済格差の固定化の防止
- 少子化対策(出生率の向上)
- 中長期的な経済成長の促進(※教育投資は乗数効果(GDP成長/財政支出)が高いとされる)
憲法上重視されるのは教育機会の均等の確保(⇒結果として経済格差の固定化の防止)ですが、後述する、高等教育の無償化の根拠法となっている「大学等における修学の支援に関する法律」では、どちらかと言うと少子化抑制を目的として掲げています。
上記目的のいずれを重視するかによって、政策パッケージが変わってくることになりますので、これら目的の優先順位なども念頭に、無償化の議論を行っていく必要があります。
・現行の教育無償化制度
現行の教育無償化ですが、まず、義務教育については、憲法第26条で、
日本国憲法
〔教育を受ける権利と受けさせる義務〕
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
と定められています。
しかし、これを受けての教育基本法では、
教育基本法
第4条 (義務教育) 国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。
と定めており、無償の範囲は授業料のみとなっており、例えば給食費、教科書以外の学習図書、制服、体操服、水着、修学旅行費用、習字セット、図工セットなどは家庭負担となっています。
続いて、高等学校の無償化については、2020年4月から、従来からあった国公立高校の授業料実質無償に加えて、私立高校授業料の実質無償化が始まりました。
ただ、私立高校授業料無償化には所得制限があり、都道府県民税所得割額と市町村民税所得割額の合算額(※両親2人分の合計額)により、支給の有無が判定されます。
最後に、大学・大学院等の高等教育の無償化に関しては、2020年4月から無償化制度がスタートしました。ただし、こちらも所得制限があり、支援対象者は、
- 世帯収入や資産の要件を満たしていること
- 学ぶ意欲がある学生であること
が必要です。前者に関しては、住民税非課税世帯及びそれに準ずる世帯の学生が対象です。
・憲法改正と教育無償化
冒頭見た通り、現状では、義務教育についてのみ、無償化が憲法で謳われており、高校無償化と大学等の高等教育の無償化については条文がありません。
ですので、日本維新の会などは、これらも含めて教育の無償化を憲法改正によって保証すべきと主張しています(なお、維新は、就学前の幼児教育含め無償化を憲法上保障することを求めています。)。
・教育無償化の財源
上述の、2020年4月から始まった大学等の高等教育の条件付き無償化は、2019年の消費増税(8%⇒10%)の値上げ分の財源が充当されています(年額8,000億円弱)。
ちなみに、今回の記事のスコープ外ですが、消費増税値上げ分の一部は、幼児教育の無償化にも充当されてます。
・現行の教育無償化に関するShiroの私見
①義務教育の無償化について
義務教育の無償化は、上述のとおり、憲法上保障されているはずが、教育基本法ではなぜか授業料のみがその対象となっており、特に貧困家庭にとっては、授業料以外の様々な費用が大きな負担となっています。
これを、授業料以外についても、憲法上明示的に認める必要があり、そのうえで、教育基本法等の関連法を改正する必要があると思います。
②高校の無償化について
高校の無償化については、私立高校の実質無償化が始まりましたが、所得制限によって、給付世帯と非給付世帯に不公平が生じているという批判もあるようですので、制度の実態把握がまず必要かなと思います。
あとは、無償化の対象は義務教育同様、あくまで授業料なので、それ以外の費用の無償化も検討すべきでは、と個人的に思っています。
この辺りは、①義務教育や③高等教育の無償化も同じですが、そもそも無償化の目的が何なのか(教育機会の均等なのか少子化対策なのかetc.)によって判断は変わってくると思いますので、何を目指しての無償化なのかを改めて明確にしながら議論していく必要があるかと思います。
②高等教育の無償化について
・所得制限などの制限の撤廃
現行の高等教育の無償化に関しては、(高校無償化同様)所得制限があり、給付世帯と非給付世帯の不公平があることについての批判があります。
また、仮に所得制限を付けるとしても、給付額の段差が3段階しかなく、海外のように例えば8段階にするか、所得に比例し連続的に減額するようにすべきではないか、という意見もあります。
加えて、現行の高等教育無償化について言うと、成績要件というものの存在も批判されています。
大学等で成績が下位4分の1以下が連続した場合には、途中で支援を打ち切るとされていますが、例えば相対評価の学部(例えば法学部など)の場合、その難易度は上がりますし、かつ、所得制限要件に該当する困窮家庭の場合、特に地方出身者はアルバイトで生活費を賄う必要がありますが、その場合、生活費を賄いながらこの成績要件をクリアすることは酷ではないか、と考えられます。
さらに、所得制限以外の点についても、高等教育の無償化の対象になる教育機関が、すべての高等教育機関ではなく一部の機関に限定されている点も見過ごせません。
高等教育無償化の根拠法となっている、2019年に成立した大学等における修学の支援に関する法律(以下「法」という。)では、「確認大学等」(法第2条第3項及び第7条第1項)に限って支援対象としていますが、高等教育機関はそもそも設置審査をクリアして認可を受けており、それにさらに要件を課して絞ることの必要性・合理性がどこまであるかは不明です。
また、そもそも現行の高等教育の無償化については、それほど認知されておらず、かつ、制度自体も要件含め複雑であることから使いづらい、という問題点もあります。
特に、困窮家庭であればあるほど、支援情報にアクセスしづらい、といった可能性もあり、よりシンプルで分かりやすい、広く浸透しやすい制度設計にする必要があります。
更に、少子化で、かつ一人当たりのGDPが下がり続けている日本において、一人一人の生産性を上げるためには、個々人が高等教育を受け、高度な専門性を身に付け、随時アップデートしていくことが求められますが、そのためには公的な財政支出を現状より増やしていく必要があります。
また、相対的貧困率が米国とともに国際的に高い日本において、貧困の固定化を防ぐという観点でも、高等教育の無償化を部分的でなく、ユニバーサルに行う必要があるかと思います。
以上を踏まえると、所得制限、対象の高等教育機関の制限、成績要件を全て撤廃し、広く高等教育への門戸を開くことが求められているのではと個人的には思います。
・高等教育の無償化の対象費用をどこまで広げるか
また、議論の余地がある部分として、給付の対象とする費用を、授業料に限定するかどうか、もあります(これは義務教育と高校もそうですが。)。
現在は実質的に奨学金や親の仕送り、アルバイトなどで賄っている、学生の生活費や書籍代などについても対象とするべきかどうかの議論も必要ではないかと思います。
この点については、今議論されているように、後払いかつ年収のX%にする、という、将来年収に応じた返済にするという考えもあるかと思います。
あるいは、一部の大学が始めているように、年収が一定額を超えるまでは返済期間が始まらないようにする、という制度もあり得るでしょう。
また、貸与型でなく、給付型の要件を緩和して、授業料以外の費用負担を軽減することもあり得るでしょう。
いずれにしても、より高度な知識・スキルが求められる世の中で必要となる力を高等教育で身に付けるうえでは、一律無償化やこの費用の範囲の問題は避けて通れませんので、今後、政府・与野党での議論を活発化していって欲しいと思っています。
今回の記事は以上になります。
後編では、続きとして教育バウチャーと教育国債について説明します。
今回の記事が参考になりましたら、ぜひ、Twitter 、このブログやYoutubeチャンネル「しろチャン!」のフォローや、SNS上でのシェアなど、ぜひお願いします!
それではまた次回👦
“教育無償化、教育バウチャー、教育国債について考えてみた(前編)” に対して1件のコメントがあります。